冬期における子牛飼養環境の改善対策(北海道版)

 ※ はじめに、今回の内容は北海道に限定されることをご承知下さい。

 

 農林水産省は平成26年より「乳用牛ベストパフォーマンス実現会議」を開催しています。

 これは乳用牛資源の確保と生産性向上を目的とした、乳用牛の増頭および泌乳能力や繁殖成績を最大限に発揮させようとする取組みです。

 この主旨に添って北海道の状況を鑑みると、北海道特有ともいえる冬場の子牛事故率の高さが注目されます。

●北海道における子牛事故の実態

 北海道NOSAI・家畜共済実績によると、乳用牛の胎子・子牛の死廃事故は45,568頭(平成26年度実績)に及ぶことが報告されています。また、(公社)北海道酪農検定検査協会が調査した北海道における分娩月別の死産率をみると、厳冬期(12月~3月)の死産率が高い傾向にあることがわかります(図1)。

このことから子牛の死廃事故を低減させること、特に冬期間の死産率を低下させることが乳用牛資源の確保につながると言えます。

図1 北海道における分娩月別死産率(平成26年)


●北海道における冬期間の子牛事故の特徴と対策
 ウシは比較的寒さに強い動物と言われますが、子牛の場合は、ルーメンが発達していないためルーメン内の醗酵熱が得られない、被毛が薄い、皮下脂肪が少ないなどの理由から成牛のように寒さに強くありません。乳用牛の限界温度の下限は、搾乳牛-20度、乾乳牛-14度、育成牛-5度、哺育牛+13度とも言われ、厳冬期に産まれたばかりの子牛が濡れた状態で冷気にさらされると、急激な体温低下で死亡するケースも少なくありません。
よって分娩時には出生子牛の体を“乾かす”、“暖める”、“保温する”といった対応を行なうことが子牛の事故防止につながります。

●「冬期子牛飼養環境向上支援事業」の利用状況
 分娩直後の子牛の寒冷ストレスは北海道の酪農家に共通する課題であり、冬場の子牛の事故率を低減させることは北海道の酪農家共通の目的と言えます。
 このためホクレン農業協同組合連合会は、酪農家段階での「分娩時」および「分娩直後」の子牛の飼養環境向上により子牛事故(死亡・疾病)を防止することを通じて酪農家の所得向上と後継牛を確保する目的に、「冬期子牛飼養環境向上支援事業」を実施しています。
詳細は下の事業概要を参照下さい。

ホクレン冬期子牛飼養環境向上支援事業の概要

そしてこの事業の利用状況(平成28年度)をまとめたのが表1です。
この事業は冬期の子牛飼養環境を改善するためのメニューが数多く提示され、また酪農家の実質的負担額を考えてもメリットある支援に思われます。
しかし、その利用戸数は1,352戸と事業対象戸数(5,797戸)のわずか23.3%の利用に止まるのが現状です。


 現在、乳用牛資源の不足から市場相場は高値水準が続き、今後もその傾向が続く見通しのため、後継牛の外部購入は厳しい状況にあります。よって、自家産後継牛の確保が重要なカギになります。また、子牛の死廃事故を減らすことは自家産後継牛の確保にとどまらず、副産物収入の増加としても経営に貢献をもたらします。

 今回ご紹介した支援事業は、子牛の飼養環境を改善させ、それを基に経営をより安定させることができる有効な事業と思われますが、今のところ利用者が少なく今後の動向が気になるところです。
 この事業の実施期間は平成28年度~29年度までの2年間、あと1年で終了します。
 興味ある方はお早めにお近くのJAに問い合わせてみてはいかがでしょうか。




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